春を背負って を3000倍楽しむ!山小屋マン的視点から偉そうに語る

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近年の登山ブームもとうとう山小屋映画上映にまで至ったようで、山小屋で働く者としては町中で「山小屋で働いています」と言うとキャーキャー言われたりするのだろうかという妄想が浮かんでいる今日このごろ。ないやろ・・・と思いますがしかし減り続けていた山小屋バイトの応募は今年などは急増しているそうで、まんざらありえないことでは無いのかもしれません。

決して楽な仕事ではありませんし、つぶしの効く仕事ではありませんが人生の中で一ヶ月でも山小屋バイトをしているのとしていないのとでは生き方が違うような気がします。

さて今回は6月中旬まで尾瀬の山小屋の小屋開きを手伝っていて、TVも携帯電話も通じないリアル山ライフを終え、東京へ向かいました。

山小屋で働く人が東京で山小屋の映画を見るというシュールさと言ったら、あなた。

「春を背負って」→意外と良かった

木村大作監督の前作「剱岳点の記」は映像が綺麗でしたが、私的にはつまらなくて途中で挫折しました。今作もその先入観があったため、山小屋マンとしてはツッコミどころが満載だろうという仲間内の期待を一心に集めていました。

まず結論を書きますと「意外と良かった」です。
もちろんツッコミどころはありましたが、素朴なストーリーで共感できることも多数ありました。
舞台となった小屋は僕が最初に働いた小屋と似たような雰囲気、景色があり、親しみが持てました。
http://www.haruseotte.jp/

以下、山小屋的な視点での良かったところ、イマイチなところをば。

よかったところ

山小屋での水の扱い方

山の水
稜線の山小屋では水は貴重です。モデルとなった立山・大汝休憩所にはおじゃましたことはありませんが、私も標高3,180mの北アルプス槍ヶ岳の山小屋で働いていた経験から推測するに水は雨水を貯めるか、標高の低いところからポンプアップするの2つの方法しかありません。町のようにどこかから水が流れてくることは岩山の稜線においてはありません。

小屋開きでの宴会の後、蒼井優さんが洗い物をしていますが桶にためた水でお皿をすすいでいます。町のように蛇口をひねれば水が出るというのは、本当に素晴らしいシステムでとても幸せなことです。

通常山小屋では前述のように雨水ないしはポンプアップで水をタンクに貯め、パイプをつないで簡易水道を作ります。僕の最初の山小屋ではたしか10トンほどの水タンクがありましたが、町中のように蛇口から水を出しっぱなしにして洗い物をするとあっという間に水が無くなってしまいます。

山小屋では普通「洗い」と「すすぎ」用の桶にお湯をためて洗います(規模が大きいところでは食洗機を使いますがそのようなところは水のタンク容量も発電機も大きい物が必要となる)。これはもちろん町での節水にも役立つことなので試してみてください(日本は世界的にみても水に恵まれているので、やたらと使うことができています)。

※小屋の環境によって水の条件はまったく異なります。尾瀬国立公園の山小屋は水は豊富で出しっぱなしでもなんの問題もありませんし、宿泊客用のお風呂まであります。北アルプスの山小屋勤務の後に尾瀬で働くとカルチャーショックに陥ります。

イマイチなところ

レスキュー危なすぎ

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主人公の松山ケンイチさんはつい春先まで東京の投資会社で働いていたような設定でして、いくら子供の頃から親に連れられて山に登っていたとはいえ、レスキュー関係の技術があるとは考えにくいのです。百歩譲って技術があるとして、オオメシ君にしても単独行の女性にしてもどちらも暴風雨下のトラブルでして、そのとき蒼井優さんと松山ケンイチさんの二人しかいない状況で無理をしてレスキューにゆくのは自殺行為です。

人助けは大事ですが自分が死んだら意味がありません。僕はあの天候で、しかも稜線近くでどこにいるかもわからない人を探しにふらふらゆく気はありません。島崎三歩さんのようには行きません。

ヘリは・・・飛ぶよね。。

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映画の設定として、貧乏な山小屋なので食料はヘリで荷揚げせずボッカ(歩荷)であげています。これは小屋の状況によってはあることなのでいいとして。しかし終盤の豊川悦司さんの緊急事態においては頂けません。必死になって松山ケンイチさんが背負って運んでいますがこの天候ならレスキューヘリは余裕で飛べます。ええ、ええ、そうしちゃったらドラマが成り立たないのですけどね。

町で救急車をタクシー代わりに呼ばれるという問題同様、山岳においても疲れたからとレスキュー要請をするかたがいて、困りモノなのですが(もちろん誰もいない状況で不安になるのはわかります)、この天候と状況だったら呼ぶだろう・・・と思いました。野暮ですネ、はい。

薪はない!

小屋の前に薪が積まれていますが、これは稜線ではありえません。ずえっったいありません。
国立公園内でも低い標高のところで、登山道上にかかった倒木を薪に使わせてもらうということはあるようですが、基本的には北アルプスのようなところでそのへんの木を薪にはできません。そもそも標高3000mともなると周辺に薪にできるような木がありません。森林限界と言いまして、町中で見かけるいわゆる普通の背の高い木は北アルプスでは標高2400〜2500mあたりで姿を消し、ハイマツなどの低木(背の低い木)だけになります。背の高い木では環境が厳しすぎて生育できないんですねー。ですので映画に出てきたような斧で割ったような薪は、低地より運ぶしか方法がなくなります。仮にこれも人力で運ぶとして一度でどのくらい運べるかというと数十本がいいところ。乾いた薪なら重さはさほどでもないでしょうが大きさがかさみ、しかしそれでも大勢の宿泊客が入るところではどのくらいの量が必要になるのやら。小規模な小屋は従業員の数次第でできることが雲泥の差になので薪運びで何日も費やすのならヘリで灯油をあげたほうが効率がいいように思います。通常、発電用に軽油、調理用のプロパンも一緒にあげます。しつこいですが薪はないです!
映像的には灯油ストーブをつけるより、薪ストーブのほうがいいのはわかるので野暮なツッコミではございます。。

ほかにも・・・野暮ですが 

・序盤のあのどっから見ても雪庇やろ、危ないやろという場所での小林薫さんの滑落は・・・まあ。。。
・従業員3人、3人か。。休憩所がモデルになっているため食堂部分が広いですが、ヤマケイアルペンガイドによると素泊まりでの定員は20名だったようです(現在は不明)。それでも日中の賑いかたを見ると3人ではちょっと辛いように思えます。
・何十キロも背負って、岩場のあんな道を歩かない!歩けない!雪で滑ったらどこまでも落ちて行くと思いますぜ。
・なんの脈略もなく登山客二人による笛(ケーナかな)の演奏がありますが、演奏しているのはモンベルの辰野会長です。私もモンベルグッズはわりと持っていますが、これは蛇足に思えます。いくらスポンサーだからとて・・・

おっと忘れてた!一番大事なこと!

蒼井優さんは可愛いです。なお山小屋スタッフ同士の結婚はよくあります。寝食、仕事と家族よりも長く過ごすのでお互いのいいところも悪いところも色々と見えてくるのでそういうことになるようです。蒼井優さんと一緒に働きたいものですね(´・ω・`)

今作を観て欲しい人は、ある程度都市生活に疑問をもちはじめてて、そしてある程度田舎暮らしや山に興味を持っている人というわりとピンポイントな感じになるかと思われます。なお東京砂漠で心が乾ききってやさぐれていると「けっ!山に蒼井優がいるかよ!けっ!!」と毒づいてしまうかも知れません。私もそう思います。なお映画館で見るのが正解でしょう。有楽町でも空いていましたのでお早めに。

こちらからは以上です。

Akira

北海道出身、旅と写真と山とダンス好き。
クラニオセイクラルやタイマッサージなどのセラピストとして活動しつつ、ウェブ制作も手掛ける。
旅ネタの多い、気まぐれブログ。
詳細プロフィール

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