人の砂漠 – バンコクの裏通りにて

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10代前半の少女が物乞いをしていた。
おそらくは彼女の子どもと思える乳飲み子をだき、駅に隣接するスーパーへとつながる歩道橋に毎日座っている。
何も希望がなく、生気のない表情で静かに座っている。

バンコクでは繁華街においてもこのような風景は珍しくない。
決して餓死することのない日本からやってきたぼくには、その風景が見えることが少しうれしい。
人間は決して平等ではなく不幸な人がいるということを思い出させてくれる。

バンコクの裏道

この日の宿は大通りから離れた静かな住宅街の一角にあった。わざわざ観光客が訪れるようなものはないただの住宅街だ。
繁華街や観光地から離れたそのような場所のほうが人々の暮らしが見えてくる。

夕方、大人たちは家の軒先に座り雑談をし、かけまわる子どもたちを眺めている。
鉢植えに水をまく人もいれば、じっと座り空を眺めている人もいる。

場違いなぼくが照れながら歩いていると物珍しそうにほほえんでくれる。
バイクタクシーのお兄ちゃんは「へい、タクシー?」と、とりあえず声をかけてくる。

小さな屋台が何件かならび、職場から帰ってきたスーツに身を包んだ女性が惣菜を買ってゆく。

old dog in BKK

沢木耕太郎の初期の名作に「人の砂漠」というノンフィクション短篇集がある。
社会とうまく関われず、不器用ながらもそれぞれの人生を過ごしている人々を描いた作品だ。

ある日、ゴミ屋敷と避けられていた一軒家から老婆の遺体が見つかる。現場検証をしたところ奥の部屋からその老婆の兄弟と見られる男性のミイラ遺体が布団のなかから姿をあらわす。その二人の人生を追ううちに、老婆はかつて歯科医として雇われていたが古い技術と視力の悪化、そして高齢から職を失う。

そこから身体の弱い兄との、貯金を切り崩しての絶望的な生活がはじまる。緻密に帳簿をつけていた老婆には、自分たちの残金からあとどれだけ食べて行けるか生きて行けるかがわかっていたはずだ。

小鳥

宿から駅へと向かう道ばたに、美しい小鳥がたたずんでいた。
日本では見かけない鳥の写真を撮ろうと近づくと、小鳥はぴくりとも逃げようとしない。
目はまだ美しく輝いているが、翼をひどく傷めてもう飛ぶことはできないらしい。

飛べなくなった鳥が生きてゆくことはできない。
おそらくあと数時間の命にもかかわらず、それでも彼の姿は美しかった。

Akira

北海道出身、旅と写真と山とダンス好き。
クラニオセイクラルやタイマッサージなどのセラピストとして活動しつつ、ウェブ制作も手掛ける。
旅ネタの多い、気まぐれブログ。
詳細プロフィール

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